〇世界をリードする日本のBNCT、さらなる進化を目指す
〇湘南鎌倉総合病院と藤田医科大学がより深い腫瘍の臨床開始へ
BNCT(Boron Neutron Capture Therapy:ホウ素中性子捕捉療法)は、ホウ素の同位体である「10B」をDDS(ドラッグデリバリーシステム)により腫瘍細胞内に取り込ませたうえで、体外からエネルギーの低い中性子線を照射すると、中性子を捕捉した10B原子核が核反応を起こし、いずれも粒子線である、放出されたα粒子(ヘリウム原子核)のα線と7Li反跳核(リチウム原子核)が腫瘍細胞を殺すという原理である。α粒子とリチウム原子核の飛程は、腫瘍細胞の1個分に収まる各9μm、4~5μmであるため、正常な細胞をほとんど傷つけることなく、腫瘍細胞のみを細胞レベルで選択的に破壊することが可能である。
さらに、発生するα線とLi反跳核は、X線やガンマ(γ)線に比べて生物学的効果が2~3倍程度高いとされ、X線やγ線照射ではがん細胞のDNAの1本の鎖しか切断できないため、DNAが修正され、がんが再発する可能性があるが、α線はDNAの鎖を2本とも切断するため、がん細胞はDNAを修復できずに死滅する。
陽子線や重粒子線を使う通常の粒子線治療は、体外から粒子線を照射するのに対し、BNCTは腫瘍細胞のみを対象とする、細胞レベルでの粒子線治療ともいえる。
❍世界初、BNCT共同医療センターと南東北BNCT研究センターで保険診療開始
日本では、20年6月1日から関西BNCT共同医療センターおよび南東北BNCT研究センターにおいて、「切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部癌」に対するBNCTの世界初となる保険診療が開始された。また、同時に、ステラファーマ㈱が製造販売するホウ素薬剤「ステボロニン(SPM-011)」も同じく世界で初めて保険承認された。いずれも住友重機械工業のシステム、ステラファーマ㈱のホウ素薬剤「SPM-011」を用いている。中性子線を発生させるターゲット材はベリリウム。
国立がん研究センター中央病院は、リゾートトラスト㈱の連結子会社㈱CICS(東京都江東区)と共同開発した加速器中性子捕捉治療装置「CICS-1」を導入した。ターゲット材にリチウムを用いている。ホウ素薬剤はステラファーマ㈱の「SPM-011」。19年11月から血管肉腫(血管の内皮細胞から発生するがん)および悪性黒色腫の臨床試験を開始し、23年1月から血管肉腫のみを対象とした第2相臨床試験を、さらに、24年9月より、住友重機械工業㈱が開発した[18F]FBPA「MPS200FBPA」合成装置を用いた[18F]FBPA PET(BNCTにおける治療効果予測や線量計算に直結する検査法)を行った上で「CICS-1」、「SPM-011」によるBNCTを行う胸部固形がん(食道がん、非小細胞肺がん、乳がん、悪性軟部肉腫、悪性胸膜中皮腫、悪性末梢神経鞘腫瘍)を対象とした第I/II相臨床試験を行っている。
また、国立がん研究センター中央病院と同じ「CICS-1」を導入した江戸川病院は、23年7月から24年3月に放射線治療後再発乳がんを対象としたBNCTパイロット試験5例を終えるなど、再発乳がんやFDG-PETで陽性となった腫瘍を対象にした臨床研究を行い、25年の夏からBNCTの自由診療を開始した。同病院では、乳がんの場合、乳腺外科と協力し、手術を希望しない患者を対象に2泊3日で治療を行っている。
筑波大学の熊田准教は、未だに治療法が確保できておらず、5年生存率が10%程度と極めて難治性の悪性脳腫瘍(膠芽腫)の医師主導治験を24年2月から開始した。初発膠芽腫の患者が対象で、12~18人の患者に今回の第Ⅰ相治験(安全性試験)を行い、その後、第Ⅱ相治験(治療の有効性治験)を実施し、効果が認められれば、医療機器の承認を経て、保険診療へとつながると期待されている。
これまでのBNCTは、体表から6cm程度、マックスで8cmまでの深度にある腫瘍を対象に治療を進めているが、(医)徳洲会湘南鎌倉総合病院と(学)藤田学園藤田医科大学は、より深い位置にある腫瘍を対象に臨床研究を進め、BNCTの適用症例を拡大する目標である。
なお、徳洲会湘南鎌倉総合病院は、国内6番目の施設を目指し、21年4月にアメリカのNeutron Therapeutics社製のBNCT装置「nuBeam」を設置し、22年10月に中性子線ビームの調整をスタートし、臨床開始を目指して調整を進めてきた。
〇湘南鎌倉総合病院、BNCTを4月開始、国内6施設目の実臨床へ
(医)徳洲会湘南鎌倉総合病院(神奈川県鎌倉市岡本1370-1、☎0467-46-9947=広報室)は2月19日、次世代のがん医療として注目されているBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)治療を4月に開始すると発表した。3月から患者登録を受け付ける。

導入したBNCT装置
BNCTは、がん細胞に取り込まれやすいホウ素薬剤を投与後、外部から中性子線を照射し細胞内で核反応を起こすことで、正常細胞への影響を抑えながら、がん細胞内で選択的に細胞障害を生じさせる。原則1回の治療ですみ、通院などによる日常生活への負担の軽減といったメリットがあり、また、手術が難しい患者の治療の選択肢を広げると期待されている。
同病院のBNCT装置は、実臨床では国内6施設目、世界でも10施設目となるが、 国内初となる機種で、一定の条件下で従来装置と比較した場合、中性子線の出力が約3倍という高出力を誇り、これにより、全身の固形腫瘍を治療対象とすることが可能である。世界ではフィンランドのヘルシンキ大学病院のみが有している機種である。
さらに、これもまた本邦初となる、BNCT装置にCTを併設しており、これにより、がん組織の形状、深度に応じた高精度な照射が実現できる。

照射のイメージ

中性子発生装置
❍有償の特定臨床研究で治療開始へ、2年間で50症例
同病院で行う治療は、通常の保険診療ではなく、国の制度に基づく有償の特定臨床研究として実施するもので、現在、保険適用となっている「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん」は対象とせず、多くのがん種の治療を行い、BNCTの有効性・安全性を検証し、将来の保険適用の拡大につなげ、より多くの患者を救う目標である。治療は、2年間で50症例を目安としている。
同病院(☎0467-46-9916=BNCTサポートデスク)は、対象となる患者として「画像検査により、がんにホウ素薬剤が集まりやすいことが確認された方」、「手術が困難」、「再発や局所進行により、従来の治療が適応しにくい」などの条件を満たした患者さんが対象。18歳以上で多発遠隔転移のないことも条件だが、全身の幅広い悪性腫瘍を対象とする方針で、上記条件に該当しない場合であっても相談に応ずるとしている。治療は保険適用外(自費診療)であり、治療費として330万円(税込み)の負担が必要となる。
同院は救急・急性期医療に加え、集学的ながん治療(手術、薬物、放射線)も積極的に推進し、2020年には地域がん診療連携拠点病院の指定を受けた。22年に県内初の陽子線治療を開始。BNCTは、がん医療強化のため従来と異なる治療のアプローチとして導入した。
❍藤田医科大学、BNCTで 世界初の膵臓がんに挑戦
(学)藤田学園藤田医科大学(愛知県豊明市沓掛町田楽ケ窪1-98、☎0562-93-2000)は、1月6日、住友重機械工業㈱(東京都品川区)と深部がん治療の研究開発を目的にBNCT治療システムおよびBNCT線量計算プログラムの導入に関する契約を締結するとともに、名古屋市緑区で治療施設の新築工事に着工した。28年の臨床試験の開始を予定している。
藤田医科大学、住友重機械工業、アトランセンファーマ㈱、ステラファーマ、㈱フジタは、24年12月に「BNCTによる深部がん治療の研究開発を推進するための覚書」を締結し、装置開発や薬剤、建屋建設など各社の強みを結集し、深部腫瘍への治療を目指した研究開発を推進している。
藤田医科大学では、生存率の低い膵臓がんに対する世界初のBNCT実施を目指しており、住友重機械では、自社のBNCTシステムの技術的知見を活かしつつ、一部仕様を改良し、加速器の出力電流を増すことでより高出力の中性子線を発生させ、体内での中性子線の到達距離を伸ばし、より深い位置の腫瘍を照射する。
BNCT治療施設は、RC造り地下1階地上3階建て延べ3456㎡(敷地5万602.27㎡、建築面積1083.11㎡)の規模で建設を進めており、27年12月中の竣工予定である。建設場所は、名古屋市緑区鳴海町字大清水69-159で、設計はフジタ一級建築士事務所、施工はフジタ名古屋支店が担当している。