「医療福祉建築賞 2025」

 (一社)日本医療福祉建築協会(JIHa)は、医療福祉建築賞 2025 の受賞者、医療福祉建築賞2作品、医療福祉建築賞 準賞2作品を発表した。
 賞の対象は、2021 年4月から 2024 年3月末までの3年間に日本国内で新築、増改築または改修された医療・福祉・保健施設である。病院14点、診療所1点、保健・福祉施設4点の計19点の応募があった。選考委員は昨年に続き、浅野晃司(学校法人慈恵大学)、勝山貴美子氏(横浜市立大学)、小菅瑠香(芝浦工業大学)、平野勝雅(大建met)、長島一道(ハル建築研究所)、湯淺篤哉(大林組)、選考委員長の三浦研氏(京都大学)の7名。
 受賞作品と評価概要については下記の通りで、掲載は都道府県コード順、応募者は太字で表記した。

医療福祉建築賞

●市立秋田総合病院
所 在 地 秋田県秋田市川元松丘町 4-30
病 床 数 396 床
延床面積 35,402 ㎡
竣工年月 2022 年 10 月
開 設 者 地方独立行政法人 市立秋田総合病院
管 理 者 地方独立行政法人 市立秋田総合病院
設 計 者 久米・村田設計 設計共同企業体
施 工 者 (医療棟・管理棟) 清水・佐々木・長谷駒・羽後・ヌノタニ建設
工事共同企業体
(立体駐車場)中田・中山・栗野建設工事共同企業体
写真撮影 ㈱川澄・小林研二写真事務所

 秋田市市街地西部に位置する市立急性期病院の現地建替え計画である。医療機能を集約した免震構造の医療棟と、スタッフ諸室をまとめた耐震構造の管理棟をあえて分棟化することにより、狭隘な敷地条件の中で合理的な工事計画と工期短縮を実現している。
 本計画の最大の特徴は、1看護単位 60 床の病棟構成にある。医療法上の上限である 60 床で計画された背景には明確な理由がある。建替え前の病院においてセル看護方式を先行導入し、その経験を踏まえてセル看護方式に適した病棟計画が検討された。60 床を4分割した 15 床のセルの中心に「ユニット拠点 NC」を配置し、各セルと病室を近接させることで患者との距離を極めて短くするとともに、この NC で看護業務の多くを行えるよう計画されている。
 また、センターコア側のカウンターは医師、薬剤師、看護補助者、クラークなどが利用できる構成とし、NC との連携を図っている。出島型 NC やサブ SS を設けた既往事例では設計意図通りに活用されていない例も見られるが、本計画ではこれらが確実に機能しており、医療スタッフと設計者が同じ方向性のもとで協働して計画を進めたことがうかがえる。さらに、1床室のトイレ入口を室内に対して45 度振ることでベッドを横付けできるよう工夫されており、患者が自力でトイレに移動できる環境が整えられている。 この仕組みにより看護業務にも意識改革が生まれ、 ポータブルトイレのほぼ全廃を実現している。
 病棟の合理性を追求したセンターコア型の医療棟は、低層階の外来部門・診療部門では大きな平面を確保することが難しい条件の中で、ゾーニングの工夫とコア周りのロの字動線によりコンパクトに計画されている。
 以上のように、狭隘敷地における建替え条件のもとで、医療機能の質、持続可能性を高い水準で実現した点を高く評価し、医療福祉建築賞に選定した。

●甲南医療センター
所 在 地 兵庫県神戸市東灘区鴨子ヶ原 1-5-16
病 床 数 461 床
延床面積 43,153 ㎡
竣工年月 2022 年 7 月
開 設 者 公益財団法人 甲南会
管 理 者 公益財団法人 甲南会
設 計 者 ㈱竹中工務店 大阪一級建築士事務所
施 工 者 ㈱竹中工務店 神戸支店
写真撮影 古川泰造

●講評
 六甲山麓の風致地区に位置する本計画は、約20mの高低差を有する急峻な敷地という極めて困難な条件下での現地建替えである。まず評価すべきは、この難条件のもとで診療機能を維持しながら約7年にわたり計画と工事を進め、プロジェクトを完遂した粘り強いプロセスである。
 敷地内を縦断する水路や複雑な法規制、さらに既存建物が密集する状況の中での建設は非常に困難であったと推察される。しかし本計画ではこの高低差を積極的に活用し、来院者、スタッフ、物流の動線をレベルごとに整理することで合理的な施設構成を実現している。特に、多棟にわたる複雑な構成の中でメインアプローチ階に設けられたバリアフリーの回遊動線は、患者にとって分かりやすく安らぎのある移動空間を実現している。
 デザイン面では 1934 年の創設以来、阪神間のモダニズム建築として地域に親しまれてきた旧病院の記憶を継承している。 「レトロモダン」をコンセプトとし、外装タイルの質感や照明器具の意匠を現代的に再解釈することで、新築でありながらも親しみのある環境を形成している。
 また機能面では、療養環境の改善にとどまらず、地域医療の要請に応える高度急性期医療機能への転換と機能強化を実現している。
 以上のように、急峻な敷地条件の中で高度医療機能の更新と歴史的意匠の継承という相反しがちなテーマを高次元で両立させた点を高く評価し、 医療福祉建築賞に選定した。

医療福祉建築賞 準賞

●愛育産後ケア子育てステーション -Aiiku Retreat Terrace-
所 在 地 東京都港区南麻布 5-6-8 愛育クリニック 4 階
宿 泊 室 個室 15 室
延床面積 1,045 ㎡(全体:19,645 ㎡)
竣工年月 2023 年 8 月
開 設 者 社会福祉法人 恩賜財団母子愛育会
管 理 者 社会福祉法人 恩賜財団母子愛育会
設 計 者 基本設計・実施設計監修・監理監修:㈱日本設計
実施設計・監理:東急建設㈱
施 工 者 東急建設㈱
写真撮影 ㈱ FOTOTECA

使用権保有者:東急建設、日本設計、愛育クリニッ 使用条件:クレジット記載必要 著作権保有者:FOTOTECA

●講評
 本施設は、築 40 年以上を経た旧病院の4階部分を全面改修し、 宿泊型産後ケア施設へと再生した計画である。 「癒しの環境も産後ケアの重要な要素である」という助産師の理念を出発点に、設計段階から助産師・看護師が参画し、母親が自分自身を大切にできる環境を実現することを目指して、産後ケアに特化した空間のあり方が検討された点に大きな特徴がある。
 共用部では既存トップライトを活かした光庭と間接照明により、木漏れ日のような柔らかな光環境がつくり出されている。インテリア、照明、アートが有機的に統合され、環境そのものが母子およびスタッフに心理的な安らぎをもたらす空間を形成している。
 宿泊室は全 15 室を個室とし、共用部やスタッフエリアの音が届きにくいフロア外周部に配置することで、見守りと静穏性の両立が図られている。内装はホテルライクな上質感を備え、素材、色彩、照明計画、什器備品の細部に至るまで丁寧に設計されている。
 特筆すべきは、運営者である助産師と設計者が計画初期から継続的に協働した点である。このプロセスはスタッフの当事者意識と施設への愛着を育み、サービスの質の向上と高い利用者満足度へとつながっている。
 以上のように、旧病院の1フロアを活用し、助産師との協働のもと産後ケアに特化した魅力的な環境を実現した点は特筆すべきである。先進的な産後ケア施設への改修事例としての意義を評価し、準賞に選定した。

●深川えんみち
所 在 地 東京都江東区富岡 1-15-9
延床面積 606 ㎡
竣工年月 2024 年 3 月
開 設 者 社会福祉法人 聖救主福祉会・NPO 法人 地域で育つ元気な子
管 理 者 社会福祉法人 聖救主福祉会・NPO 法人 地域で育つ元気な子
設 計 者 JAMZA 一級建築士事務所
施 工 者 ㈱長井工務店
写真撮影 楠瀬友将

●講評
 既存建物を改修したデイサービス、学童保育、子育て支援センターなどからなる複合福祉拠点である。運営はデイサービス等を担う社会福祉法人と、学童保育等を担う
NPO 法人の2法人による。両法人は従来から近隣の幼老複合施設で協力関係にあり、本施設ではその関係を発展させ、地域に根ざした幼老交流と多世代の関係性を育む拠点を目指している。
 1階の大部分をデイサービスが占めるが、中央を貫く通り土間空間「えんみち」がフロアを緩やかに分節し、適度なスケールの複数の居場所を生み出している。これにより居場所ごとに異なる活動が可能となっている。「えんみち」とデイサービスは腰家具によって緩やかに区切られ、適度な領域性と一体感を両立させている。また、地域住民に年単位で貸し出される「えんみち文庫」が、多様な主体が関わる街のような雰囲気を生み出している。
 2階には学童保育と子育て支援センターが配置されるが、そこへ至る動線にも工夫が見られる。 「えんみち」北側から学校帰りの子どもが入り、 南側出口から外部に抜け、増設された屋根付き外部階段を上がり、2階の縁側靴箱を経て学童へ至る。この立体的な動線は子どもの活動を建物全体に広げ、移動の過程で自然なコミュニケーションを生み出している。
 以上のように、 「えんみち」を中心とした空間構成と動線計画により、多世代の関係性を育む魅力的な場を創出している点を評価し、準賞に選定した。

●「新築よりも改修・再生建築の応募が目立った」
 三浦委員長は、「今年度は建設費高騰の影響もあり、新築よりも既存建物の改修や再生による医療福祉建築の応募が目立った。限られた条件の中で建築と運営を統合し、地域や利用者に新たな価値を生み出す取り組みが多く見られたことは、今後の医療福祉建築の方向性を示すものといえる」と振り返った。